2013年12月9日月曜日

高見島は除虫菊の産地であった。
およそ40年前の高見島の写真を見ると、島が除虫菊の白い花によって覆われている。
しかしその後、科学的に合成された蚊取り線香の普及によって、
除虫菊の生産は途絶えてしまったのだそうだ。
除虫菊が島を覆う40年前の高見島


「除虫菊の家」は、
立体コース内田晴之先生と陶芸コース卒業生の小川文子さん、田辺桂さんによる作品だ。
高見島に除虫菊の揺れる風景をよみがえらせ、
その除虫菊を用いて巨大蚊取り線香を制作するプロジェクトだ。

除虫菊の畑
収穫した除虫菊を掃除する


春、草むらを整地し、畑をつくる。
除虫菊の種をまき、育てて、夏に収穫。
乾燥させた除虫菊を素材として
秋には、一軒の古民家でのインスタレーション作品「除虫菊の家」を作り上げた。




「除虫菊の家」に入る。
玄関先の土間には、壷一杯に盛られた除虫菊の乾燥花。
可憐でありながら、堂々とした存在感を放つ。
この春から夏、高見島の大地で育てた除虫菊の一部だ。






土間から室内に目をやると、壁にモノトーンの風景写真が目に飛び込んできた。
かつての島の風景、除虫菊の畑だ。
三枚の絨毯のように床に広がるのは、今年収穫された除虫菊。
三枚の質感の違いに、目を凝らしてみると、
手前の四角は雄しべ、中央は種子、奥はがく。
除虫菊の花は分解され、それぞれの部分ごとに床面に敷かれている。
かつて高見島を覆った四角い除虫菊畑と
古民家の床に四角く敷かれた今年の除虫菊が
時を隔てて、つながっている。

除虫菊の雄しべ、種子、がくによるインスタレーション

手前から、がく、種子、雄しべ

こちらは、除虫菊の花びらによる作品




香りに誘われて、二階に上がる。
漂う懐かしいこの香りは、除虫菊から作られた蚊取り線香の香りだったのだ。
芸術祭のスタート時に点火され、
会期中、絶えることなく燃え続けるように、
螺旋状に並べられた蚊取り線香。







島の時間と重なり合うように
静かに、ゆっくりと、白い灰へと姿を変える蚊取り線香は、
「今」という時が、やがては柔らかな追憶へと変わるその過程を
絶えることのない細い煙によって静かに語っているようだ。
古民家の暗闇に浮かぶ、流れる時間の風景。