2013年11月11日月曜日

「サブ家」と看板の掲げられた家を見つけた。
版画コース大学院生の迫鉄平さんの作品「サブミッション・ハウス」だ。
刷り上げた膨大な版画で埋め尽くされた家。高見の風景の色調は自然色。サブミッション・ハウスの屋内の壁面を埋め尽くす広告や雑誌の印刷—その色は原色で、くらっとする目眩の感覚。目が痛い。

しかし、しばらくそこにいると、その痛いくらいの刺激が心地よく思えてきた。

迫鉄平さん「サブミッション・ハウス」内部

そういえば、大都市と呼ばれる場所に佇むと「都会は毎日お祭りだ」と思うことがある。色と音の氾濫。強烈な刺激、刺激への陶酔。メディアを通して、眩惑のお祭り騒ぎが、この静かな島にもなだれ込んでいる。そして、一人また一人と島から都市へと島人が流れ込んだのかもしれない。そういう想像を抱きつつ、サブミッション・ハウスを後にした。


高見島は、細い路地が家々をつなぐ。石垣と家屋に挟まれた小道の散歩は、前進しないと先の風景が分からない。だから、思いがけない風景と突然の出会いをすることも楽しみのうちの一つだ。真っ赤な紅葉、眼下の海・・・







中塚邸から順路をさらに進む。
朽ちて崩壊した廃屋が現れた。
人の立ち去った家屋は、雨風そして植物によって屋根・壁が浸食され、保管されていたはずの生活道具が溢れ出す。時間の流れに抗えず、押し崩された暮らしの場。






この廃屋を見下ろす高台に、「刻」が設置されている。
立体コースの大学院二回生の青木亜樹さんの作品だ。およそ二ヶ月の間、高見島で滞在制作を行った。「島に流れる時間と自分の時間が重なる」ところに生まれた作品と、青木さんからうかがった。島に流れる時間と、作るという行為の時間とが重なり合って生まれた構造物。蛸壺として使われる貝殻、漁網、農具、そして島の時間、青木さんの時間が堆積している。さらには、それが風化してゆく過程も作品の一部となってゆく。

青木亜樹さん「刻」





そびえ立つ石垣の上に築かれた「中塚邸」。
屋敷内には、日本画コースの四名の作家による「高見島へのオマージュ」が広がっている。瀬戸内の伝統的な風物や暮らしへの畏怖をテーマとする作品によって、建物全体が空間構成されたインスタレーション作品だ。



まず玄関口で迎えてくれたのが、日本画コース小西通博先生の作品「海、空」。瀬戸内の海と空が、中塚邸の襖に映り込んだよう。とても清々しくて、住人の去った家屋に生まれた新たな息吹を感じる作品。↓
小西通博先生「海、空」


 
玄関から客間をのぞくと、畳の上に並べられた絵画の数々。絵に誘われるままに客間に入る。作品は、日本画コース卒業生の藤野裕美子さんによる「肩の情—高見島—」。高見島に暮らしておられる人々を描いた肖像画だ。一人一人にお願いしてモデルになってもらったと聞く。その時の交流の様子が、淡く柔らかな色彩から滲みだしてくるように思え、さまざまな空想を誘う。↓
藤野裕美子さん「肩の情—高見島—」
     



展示はさらに、二階へと続く。自然光の差し込む一階と比べ、二階はかなり暗そうだ。幅の狭い階段を恐る恐る上ってゆく。上りきったところで待っていたのは、ライトを受けて、暗がりに浮かび上がる暮らしの道具。かつての時間の中に足を踏み入れたかのようでちょっとドキドキ。↓




振り返ると、壁に作品が。描かれた子供の姿に、ほっとする。日本画コース卒業生、河野有希さんの作品「なつかしい声が聞こえる」だ。行き交う鑑賞者の陰が絵画の上で揺らめくのを、ずーっと眺めていたい気持ちになる。一つの絵画の上で、かつての時間と今の時間が交錯するかのような不思議な感覚。↓


河野有希さん「なつかしい声が聞こえる」



奥の襖には、日本画コース卒業生楠本衣里子さんの作品「ナカツカサンニハセル」。小さな窓から差し込む光に浮かび上がる色彩が、なんとも心地よく、温かだった。この小さな窓から、中塚邸インスタレーションのエネルギーが島中に広がるといいな。↓

楠本衣里佳さん「ナカツカサンニハセル」






2013年10月14日月曜日

お接待の茶粥で心も体を温かくなり、高見いこいの家の前の急な坂道を上ってゆく。
山の斜面に沿った坂道と階段状の石垣が続く。
数分歩くと、右手にグランドが見える。
高見小・中学校の校庭だ。10月26日に映像コースの相内啓司先生による能舞台「水軍女王」が上演される予定の場所。今は、舞台装置を制作中の様子。

小・中学校を通り過ぎ、道沿いにどんどん上がってゆくと、お城のような立派な石垣が目に飛び込んだ。

この石垣を作るためには、石を運んでこの坂道を何度行き来したのか・・・と想像すると、高見島が賑やかで華やかであった時代が偲ばれる。現在は空家となっているこのお家。日本画コースの小西先生と卒業生三名が作品を展開している。



浦港から集落の方へ進んでゆくと、公民館「高見いこいの家」が右手に見える。
左手にある急な坂を上ってゆくと、空き民家を利用した作品群へと続く。

さあ「がんばって坂を上ろう!」と気合いを入れているところに、「茶粥はどうですか〜」との女性の声。その声がとても素敵だったので、お接待にあずかることとなる。



地域の伝統料理である茶粥。対岸の四国多度津町に嫁いだ高見島育ちの奥様が、茶粥を運んでくださった。巡礼の伝統のある四国では「お接待」の伝統を持つ。巡礼者を力づけるために、無料で提供される食べ物。
瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内の島を舞台としたアートの巡礼とも言えなくはない。降り止まない雨に冷えた体に、あたたかな茶粥が何とも言えず有り難い。



茶粥は「どくけし」と呼ばれる雑草の種を煮出した汁で作られる。この茶色い粒が、「どくけし」の種を乾燥させたもの。



こちらは、刈り取ったばかりの「どくけし」。
高見島を散策しているとあちこちで見つけることができる。
「どくけし」という名が語るように、島の先人方は、野草の持つデトックス効果をご存知だったのだろう。巡礼者の疲れを癒す茶粥は、まさに「どくけし」。

秋会期中の土・日・祝のみ、一日100食の茶粥が、高見いこいの家でふるまわれる予定だ。茶粥をお運びくださる地域の人たちとの会話に、心が弾むひとときでもある。

浦港で来訪者を迎えるもう一つの作品は、洋画コースの小松敏宏先生の「Sea Room」だ。


高見島の形をもとにして成形されたパビリオン型のこの作品。中に入っていくと・・・



高さ10cmほどのガラス容器が、何段も積み重ねて構築されたパビリオン。
ガラス容器の中には何が入っているのか、さらに近づいてよく見てみたくなる。


高見の港で採取された海水が容器を満たす。
海水越しに透けて見える港の光景。
この瓶には、港に停泊中の船が映る。
まるで、高見の風景を小瓶に閉じ込めたよう。
何千個にものぼるガラス瓶は陸と空の間で海水をたたえ、あるものは貝殻を、あるものは船の姿を、またあるものは来訪者の姿を、優しく抱きかかえている。




新なぎさ号が高見島の浦港に近づくと、真っ先に目に飛び込んでくるのは、鮮やかな黄色だ。数えきれないほどたくさんの黄色い旗が、港から始まり集落へと続いている。
テキスタイルコースの市村冨美夫先生と中川裕孝先生による作品「畏敬・よみがえる失われたかたち」だ。



瀬戸内国際芸術祭・秋会期のオープニングが行われた10月5日は、あいにくの雨模様。それにも関わらず、輝く黄色が島を彩っている。


近づいて見ると、旗の上に青い色の手形を発見。風にたなびく手形、手形、手形・・・3000枚の旗のすべてに!


多度津町すべての園児、小中学生たちが作った手形の旗だという。勢いよく押された絵の具のはみ出しや滲みから、子供たちの元気のよさが伝わってくるよう。


幼稚園児の女の子とお母さんが、自分が作った旗を見つけ出そうと頑張っておられた。3000本の中から探すのは、なかなか大変ではある。が「見つけた!」との声を聞くと、嬉しくなってくる。