2013年11月25日月曜日

作品の数々に導かれながらの散策。
階段や坂をのんびりと上っていくうちに、かなりの高台に到達した。
眼下に大きな瀬戸内海が横たわる。




この豊かな瀬戸内海に囲まれた高見島。その暮らしの基盤は、漁業であった。
海を眺めながら、昨日の民宿の夕飯を思い出す。
ホットプレートの上で暴れる大きな蛸。
その姿がショッキングだったので、私の脳裏に強く焼き付いた「高見島の蛸」。
そういえば、海辺には蛸壺が、壁のように積まれていた。
この海には、うじゃじゃと蛸が生息しているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、立体コースの吉野央子先生の「蛸の家」へと向かう。

蛸の巣を持つ習性からインスピレーションを得て作られた「蛸の家」
古民家一軒を蛸の住処に見立てたインスタレーションだ。



「蛸の家」に上がった最初の部屋。
木彫の蛸から「まあ、一杯!」との言葉が聞こえてきそうだ。
テーブルにへばりつき、顔を真っ赤にした蛸が、来客をもてなしてくれる。




奥の部屋では、蚊帳の中に横たわる蛸。
蚊帳の裾の青が、眼下に広がる瀬戸内海を思わせる。
縁側から注ぐ柔らかな自然光を浴びながら、
海の夢に漂うお昼寝の蛸。




二階は、かつて倉庫として使われていた空間だ。
床に配置された壷の数々。
よくみると、その一つ一つから、にょろっと蛸が足を見せている。
足先だけをちらっと覗かせる蛸を見ていると、
家の隅々の暗闇から、蛸の足がにょろっと伸びてきそうだ。
その気配に誘われて、
振り向いたり、覗いたり・・・
思わず蛸探しをはじめてしまう「蛸の家」。






2013年11月18日月曜日

洋画コース卒業生の中島伽倻子さんの「うつりかわりの家」を訪れる。

古民家の中に入ると、真っ暗な空間の中に、ぽつりぽつりと浮かび上がってくる小さな光。次第に、壁にも屋根にも無数の光が点々と浮かんでいることに気づく。

壁や屋根に等間隔の穴をあけ、その穴に光を通過させるアクリル棒を埋め込んで、
その穴から、屋外の光が屋内へと通ってくる構造だ。

余分な物が一切排された潔さ。
天候とともに、時間とともに、季節とともに、うつりかわる光の叙情。
そしてその美。




2013年11月11日月曜日

「サブ家」と看板の掲げられた家を見つけた。
版画コース大学院生の迫鉄平さんの作品「サブミッション・ハウス」だ。
刷り上げた膨大な版画で埋め尽くされた家。高見の風景の色調は自然色。サブミッション・ハウスの屋内の壁面を埋め尽くす広告や雑誌の印刷—その色は原色で、くらっとする目眩の感覚。目が痛い。

しかし、しばらくそこにいると、その痛いくらいの刺激が心地よく思えてきた。

迫鉄平さん「サブミッション・ハウス」内部

そういえば、大都市と呼ばれる場所に佇むと「都会は毎日お祭りだ」と思うことがある。色と音の氾濫。強烈な刺激、刺激への陶酔。メディアを通して、眩惑のお祭り騒ぎが、この静かな島にもなだれ込んでいる。そして、一人また一人と島から都市へと島人が流れ込んだのかもしれない。そういう想像を抱きつつ、サブミッション・ハウスを後にした。


高見島は、細い路地が家々をつなぐ。石垣と家屋に挟まれた小道の散歩は、前進しないと先の風景が分からない。だから、思いがけない風景と突然の出会いをすることも楽しみのうちの一つだ。真っ赤な紅葉、眼下の海・・・







中塚邸から順路をさらに進む。
朽ちて崩壊した廃屋が現れた。
人の立ち去った家屋は、雨風そして植物によって屋根・壁が浸食され、保管されていたはずの生活道具が溢れ出す。時間の流れに抗えず、押し崩された暮らしの場。






この廃屋を見下ろす高台に、「刻」が設置されている。
立体コースの大学院二回生の青木亜樹さんの作品だ。およそ二ヶ月の間、高見島で滞在制作を行った。「島に流れる時間と自分の時間が重なる」ところに生まれた作品と、青木さんからうかがった。島に流れる時間と、作るという行為の時間とが重なり合って生まれた構造物。蛸壺として使われる貝殻、漁網、農具、そして島の時間、青木さんの時間が堆積している。さらには、それが風化してゆく過程も作品の一部となってゆく。

青木亜樹さん「刻」





そびえ立つ石垣の上に築かれた「中塚邸」。
屋敷内には、日本画コースの四名の作家による「高見島へのオマージュ」が広がっている。瀬戸内の伝統的な風物や暮らしへの畏怖をテーマとする作品によって、建物全体が空間構成されたインスタレーション作品だ。



まず玄関口で迎えてくれたのが、日本画コース小西通博先生の作品「海、空」。瀬戸内の海と空が、中塚邸の襖に映り込んだよう。とても清々しくて、住人の去った家屋に生まれた新たな息吹を感じる作品。↓
小西通博先生「海、空」


 
玄関から客間をのぞくと、畳の上に並べられた絵画の数々。絵に誘われるままに客間に入る。作品は、日本画コース卒業生の藤野裕美子さんによる「肩の情—高見島—」。高見島に暮らしておられる人々を描いた肖像画だ。一人一人にお願いしてモデルになってもらったと聞く。その時の交流の様子が、淡く柔らかな色彩から滲みだしてくるように思え、さまざまな空想を誘う。↓
藤野裕美子さん「肩の情—高見島—」
     



展示はさらに、二階へと続く。自然光の差し込む一階と比べ、二階はかなり暗そうだ。幅の狭い階段を恐る恐る上ってゆく。上りきったところで待っていたのは、ライトを受けて、暗がりに浮かび上がる暮らしの道具。かつての時間の中に足を踏み入れたかのようでちょっとドキドキ。↓




振り返ると、壁に作品が。描かれた子供の姿に、ほっとする。日本画コース卒業生、河野有希さんの作品「なつかしい声が聞こえる」だ。行き交う鑑賞者の陰が絵画の上で揺らめくのを、ずーっと眺めていたい気持ちになる。一つの絵画の上で、かつての時間と今の時間が交錯するかのような不思議な感覚。↓


河野有希さん「なつかしい声が聞こえる」



奥の襖には、日本画コース卒業生楠本衣里子さんの作品「ナカツカサンニハセル」。小さな窓から差し込む光に浮かび上がる色彩が、なんとも心地よく、温かだった。この小さな窓から、中塚邸インスタレーションのエネルギーが島中に広がるといいな。↓

楠本衣里佳さん「ナカツカサンニハセル」